はじめに
さみしいから、コンビニに買い物に行くおばあさんがいる。お店のおねえさんの「はい、おつり」というひと言が、その日おばあさんが人と交わす、唯一の言葉なのだという。
学校と塾と自宅を巡る日々で、人と遊ぶ場所を持たない子どもたち。
子育ての責任をひとり背負い込み、途方に暮れながら、たずねる相手もいない、母親たち。
地域とつながりをまったく持たないサラリーマン。
日本には、なんと孤独な人たちが多いことだろう。
さまざまな人が起こす社会問題を突き詰めていくと、私たちは、巨大な孤独の暗闇に遭遇する。
「ちょっと悩みを打ち明けられる人がいたら」「どうしてあの人が抱えている問題に誰も気づけなかったのだろう」「誰かがほんの少し手つだってあげたら、あの人は死なずにすんだのに」
問題が起きてから、人々はそう悟り、日本社会の暗闇をほんの一瞬思うが、それだけで終わり、日々の暮らしは変わらない。
その暗闇に、ぽっと小さな灯をともそうというのが、ふれあいの居場所である。一つ一つは小さな灯でも、その灯があちこちにともれば、やがて暗闇の世界は、みんなの笑顔がみえるあたたかい世界に変わっていく。
子どもたちも、お年寄りも、若者も、中年も、そこで人とふれあい、元気をもらって笑顔を取り戻す。仕切られない居場所には、そういう力がある。人が本来持っている力が、寄り合ってエネルギーを生み出すのである。
まずは、自分たちで、そういう居場所をつくってみよう。あなたは、多くの幸せを生み出すことができる。そして、自分も、幸せになれる。
昔から、私たちは、そういう場所をつくって、暮らしてきたのだから…。
堀田 力
ふれあいの居場所とは
地域に住む多世代の人々が自由に参加でき、
主体的に関わることにより、自分を生かしながら過ごせる場所。
そこでのふれあいが、地域で助け合うきっかけにつながる場所。
「ふれあいの居場所」は、誰もがお客ではなく、人々は主体的に交わり、いきいきとします。人は人から認められることにより、自分の存在意義を確認し、元気になることができます。また、受け入れ合うような関係は、人々の心に安心感を生み、人と人との間に自然なふれあいが生まれます。そして、そういった人と人との関係は絆を生み、さまざまな助け合いに発展していきます。
また、多世代が交流することで、更に自然で多様なふれあいがもっと広がり、また、同世代の人だけが集まるのとは違う場の効果がさまざまな形で生じます。よって、これからつくる人には、多世代がふれあう居場所をつくることをすすめていきたいと思います。
そのような多様な展開が生まれる「ふれあいの居場所」は、場合によって、また来る人によって、形を変えていくことも多く見られます。人が主体的に関わり、自由に出入りし、自分を生かしている、そういったゆるやかなあり方は「ふれあいの居場所」ならではのことです。
そのような特徴を持つ「ふれあいの居場所」では、「最初からすべてを完璧にする必要はなく、やっていきながら中味をつくり上げていく」「最初から行政に頼らず、自分たちができることから考えていった方がよい」などの声も寄せられています。
ふれあいの居場所をはじめるにあたって
ふれあいの居場所をつくる意味
さわやか福祉財団は、1991年に「新しいふれあい社会の創造」という理念の下で活動をはじめました。当初は、介護保険制度もなく、急速な高齢化が進む中、高齢者を支える仕組みが必要でした。そこで、高齢者を支援する活動に取り組みながら、ふれあいの精神を広げていく運動に取り組みました。
その後、2000年に介護保険制度もはじまり、次第に制度が定着し、身体を支えるケアが行き渡ってくると、人々は、心のケアを求めるようになります。心のケアは、年齢などに関係なく、子どもから中高年まで、その人が、その人らしくいられるためには、なくてはならないものです。ですから、高齢者のみでなく、年代に関係なく、多くの人が「居場所」に関心をよせ、また、自治体でこれを支援しようとする動きが活発化してきているのは、福祉の進化を示すものだといえるでしょう。
そのように各地で「居場所をつくろう」という気運が高まる中、その気運を生かしながら、全国に「ふれあいの居場所」を普及し、精力的にふれあいを広げていきましょう。
自由な「ふれあいの居場所」では、人々は受け入れ合いお互いを認め合う関係が生まれます。それは、人と人との間に安心感を生み、居場所で出会った人たちは、自然にふれあう関係となり、そして、いずれ助け合う関係になっていきます。
これは、「新しいふれあい社会」の実現に直接つながることであり、私たちの願いです。だから、いろいろな形の「ふれあいの居場所」が身近にたくさんあることが大切です。みんながいきいきとしてふれあい助け合う温かい社会をつくっていきましょう。
求められる居場所の姿
いつでも立ち寄れて、いつでも帰ることができる
誰もが利用できる
子ども、高齢者、障がい者、勤労者及び主婦といったさまざまな立場の人々
時間を自由に過ごすことができる
一人で読書や裁縫をするもよし、みんなでおしゃべりをしたりゲームをするもよし
経験や能力を生かすことができる
自分の役割を見出すことで、生きがいをつくる
自分の存在を認識できる
人とのふれあい、助け合いの中で、自分に自信を持つ