「地域助け合い基金」助成先報告

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居場所その他

助成額

150,000円2022/08/25

助成⾦の活⽤内容

【事業名】 ヤングケアラーのための防災教育~災害から自分も家族も守るために~
【対象者】 大阪市域におけるヤングケアラー及び支援者(対象者4,151人のうち第一期対象として500人)
【背景】 家族の介護や世話に日常的に携わる子どもや若者をさす「ヤングケアラー」。今年3月の「大阪市立中学校生徒を対象としたヤングケアラー実態調査(大阪市)」では、5万2千人のうち9.2%(4,151人)にあたる子どもが日常的に家族の介護や世話を担い、自らの学業や健康維持、将来の選択などに余裕を持てない実態が明らかになりました。コロナ禍の長期化により社会との接点が著しく閉ざされ、中には受援の機会があることすら知らない子どもも存在します。
一方、当団体が実施している「防災カレッジ」に参加しづらい、できない子どもの存在やその理由について社協や中間支援組織を通じて調査したところ、家庭の貧困や必要な情報が届いていないという課題が明らかになりました。加えてこの調査においてヤングケアラーの存在が浮彫りになり、平時からの防災教育はもちろん災害時の避難行動に至るまでの一層の防災教育と情報伝達の両面での対応の必要性を痛感しました。
災害時に自分の命を守るだけでなく、日常的にケアを要する家族の命まで守るという思い責任を負うヤングケアラーのために防災の基本的な知識と災害時に頼れるセーフティネットの存在を明らかにするための新たな事業に取り組もうとしています。
【取り組みの内容】 (今年度取り組もうとしている活動を取り組み順に記載しています) 
(1)現状分析、課題分析と精査 
大阪市調査を行った専門家チームの協力を仰ぎ、詳細な調査結果から現状分析と課題の検出を行います。
(2)防災リテラシーの向上に資する教材の制作 
基礎的な防災の知識に加え、大阪市域に特化した災害リスク(海溝型地震及び直下型地震、津波、高潮など)とヤングケラーが抱える災害リスクを織り込んだ教材を作成し、家族のケアと両立可能な防災学習の様式について検討します。
(3)ヤングケアラーの孤立を防ぐ共助の仕組みとセーフティネットの形成
行政や社協と当団体が有する子育て支援団体とのネットワークを融合させてヤングケアラーが平時から身近に頼ることができる存在や居場所の整備に取り組み、共助の促進とセーフティネットの整備に取り組みます。

活動報告

●ヤングケアラーに視点をおいた理由と活動の経緯
2022年4月「大阪市立中学校生徒を対象としたヤングケアラー実態調査」から浮かび上がった現状を基に当事者や元当事者、支援団体に対し、平時/有事における課題をより深い掘り下げました。
印象深いコメントとして、「自分たちは幼い頃から家族の世話や面倒を見る生活が普通だったので、最近、自分たちのことをヤングケアラーと呼び、新たな社会課題として注目されていることに戸惑いがある。」、「家族から目が離せなくて正直負担に感じる時もあるが、自分がいないと困るから頑張れる。」という声が多数ありました。また、「家族のことをずっと世話してきて、自分を守ってくれる人や甘えたり、愛してくれる人の存在が欲しい。」「2018年の大阪北部地震の時、病気を持つ家族を守れるかとても悩んだことがある。」など、家庭の状況が異なるケースも多く、様々な現実に触れることができました。

●ヤングケアラーを取り巻く状況と防災教育
家庭内で防災について考えたり、実践したことはあるかという問いに対して、「日々のストレスやプレッシャーの中で防災までが自分の肩にのしかかることは辛い」と言う声が多数ありました。有識者会議においても一元的に防災啓発絵本を配布するのではなく、日々家族の命に向き合っている彼らの目線に立ち、日常の中で気軽に取り入れられるものを目指しました。さらに、彼らからのアイデアとして、絵本の末尾に自分の家族について書き留めるページを追加しました。災害時に携帯が使えない場合やパニックになった時に落ち着いて行動できる「心の備え」としての要素を盛り込んだ防災絵本は当事者に寄り添う視点を明確にしたもので、他に例がないと考えます。

●ビフォー・ヤングケアラー期からの防災
小学校入学を機に家族のケアを担いはじめたケースが多いことから、ヤングケアラーになる前の時期、つまり保育園や幼稚園の時期における防災教育の重要性にフォーカスを当て、初めて防災に出会う機会であろう「避難訓練」を題材に選びました。本事業に取り組む中で私たちの考えが徐々に変わり始めました。結果、ヤングケアラーになる前に防災に触れる機会として幼稚園、保育園での避難訓練にフォーカスしてみようという考えに至りました。未就学児は言葉や理屈での理解が難しい年齢であり、現場の保育者からも年少者に対し避難訓練の目的や意義を伝えることが非常に難しいという声を受けていたことから、避難訓練の前に保育士や教員がこの絵本を読み聞かせることで、物語の主人公である「ぼうさいサンタ」を介した防災の大切さの伝達が有効ではないかと言う視点に立ち、保育園や幼稚園以外の場所でも手軽に手に取れる絵本の体裁にこだわりました。

当団体では2014年の設立以来、豊かな子育て環境の実現を目指し、特に災害弱者になりうる人のない防災の実践に取り組んでいます。災害時に安全な場所へ避難することは誰にでも当たり前のことですが、家族の事情によって避難すらできない家庭が多数存在し、最初から避難を選択しないという重い決断をしている人もいます。そうした人々がこの絵本を手に取り、避難の重要性を理解してもらえるよう、発信を続けていきたいと思っています。今後より多くの子どもたちに伝えるツールや方法として、大型のパネルシアターの制作や読み聞かせ会の開催、デジタル書籍化なども新たにアイデアとして浮かんできました。継続的な助成が可能であればぜひ取り組みたいと思っています。
貴財団のご支援をいただけましたことに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

今後の展開

防災を学ぶのは学校?家庭?皆さんはどう思われますか?
実際に子育て層への聞き取りを行った結果、家庭で親が子どもに防災を教えるのは難しく、学校で避難訓練などの機会に学ぶものだと考える声が圧倒的です。一方、学校の先生方からは、防災は特定の教科ではないため、むしろ家庭の中で教えて欲しいと考えられており、結果、家庭でも学校でも防災教育に責任を持って取り組む形にはなっておらず、私たちはここに課題を見出しました。

災害から命を守り、災害後を力強く生き抜くことは私たち一人ひとりの命に向き合う上で、なくてはならない要素だと考えています。そんな中で子ども期からできる防災教育とは何かを考えていた時にこの助成金のことを知りました。

子どもが初めて社会に出て、その中で人との関わりを学び、そして誰にとっても大切な、あまりに大きなテーマである「防災」に出会う場の一つが保育園、幼稚園での「ひなんくんれん」です。幼児教育の現場では日々の活動や学習が隙間なく組み込まれ、防災教育を充実させる余裕が持てないことや言葉での説明を理解するのが難しい年齢の子どもたちに対し、災害から身を守る術をしっかり伝えるための教材や人材に乏しく、地震の際は机の下に隠れたり、火災の際は口を押さえて背を低くして逃げるといった「形から入る防災教育」にならざるを得ないという課題が浮かび上がりました。

現場の先生方からも年少者に対し避難訓練の目的や意義を伝えることが非常に難しいという声が寄せられたことから、避難訓練の前に保育士や教員がこの絵本を読み聞かせることで子どもたちにしか姿が見えない「ぼうさいサンタ」を介して災害の危険から逃れる方法を学び、個々の行動の意味を知ることができるのではと考えました。

この絵本は今後、大阪市内の幼稚園を中心に実際の避難訓練の前に読み聞かせてもらい、子どもたちの反応や行動の変化を確認する教材として役立てたいと思っています。今後、大型のパネルシアターやデジタル書籍化など新たに浮かんだアイデアを一つひとつ形にしていこうと思っています。また、今回制作した「じしんへん」に続き、火事や台風、水害への備えについてもシリーズ化が実現すればより本事業の価値が高まり、社会への貢献度も向上するのではと考えます。引き続きご支援をお願い申し上げる次第です。

「ぼうさいサンタとひなんくんれん じしんへん」の制作に携わってくださった生田英輔教授からの推薦の言葉をいただきました。
水害や津波と比較すると、突発的に発生する地震から命を守るためには、とっさの判断と行動がより重要になります。未就学児であっても、幼稚園、保育園、通園途中といったあらゆる場面で地震に遭遇する可能性があります。地震発生の瞬間、周りに大人がいないということも想定しなければなりません。
親しみやすいキャラクターとともに、子どもたちが地震から自らの命を守る方法を学ぶ第一歩として、本書を推薦します。
大阪公立大学都市科学・防災研究センター 教授 生田 英輔 先生

添付資料